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運命に弄ばれる感覚

山田 晋司

「どうなってるんだ!? 運命に弄ばれてるんじゃないか! いったいオレがなにをしたっていうんだ」
私の頭のなかを、まるで自問自答するようなそんな声が次々と響き渡っていました。そのあとに続いた思いは、
「ムリだよ、そんなこと―だいたい、辛くてたまらない結果を突きつけられるような格好だったじゃないか。それまで、死ぬ気で頑張って必死の思いで目指してきた目標を、それでもダメだ、やっぱりオレにはできない、ってやっと諦めて、みんなに頭を下げたとたんに、こんなことになるなんていったいどんな巡り合わせだ!」
といった、なんの結論も出ようがない堂々巡りのものでした。
平成24年4月に入ったばかりのことです。株式会社CSIで多忙な業務をこなされていた鵫とうのす巣社長が突然倒れたという連絡が入りました。そのまま緊急入院、一刻を争う容態で、成功の確率がわずか3割程度という難しい手術を受けなければならないという状況が刻々と伝わってきます。そんななかでも、現状で動いている警備業務は一瞬も滞らせるわけにはいきません。そもそも鵫巣社長が倒れられたのも、株式会社CSIの仕事が立て込んで責任者としてムリにムリを重ねてこられたことが、大きく影響してきたことは間違いなかったのです。グループ内で緊急の対応策を探るなか、行き着いた結論。
それが、
「山田、お前しかいない。株式会社CSIの社長代行になれ、立派に鵫巣社長の代わりを務めてこい!」
というものだったのです。
普通の状態なら、これほどやる気を奮い立たせてくれる状況はないかもしれません。非常時の代理とはいえ、当時IMSグループ全体のなかでももっとも勢いのある一社であり、ノリにノッていた株式会社CSIの責任者に指名されたのです。自分の力を思うがままに発揮し、引き継いだタイミング以上の業績を刻むという使命。少し考えてみるだけでも、願ってもないチャンスだと、武者震いしながら興奮するのが当然です。いまの私でもそう思います。ただし、そのときだけは違っていたのです。


失敗の悪夢からの再起

山田 晋司

私がIMSグループに参加したのは、自分の警備会社を立ち上げるためでした。その点ではIMSグループ内の社長さんたちと同様に、その傘下で分社独立して
「一国一城の主」
になるのが当面の目標。しかも、自分にはそれだけの実力があると固く信じ込んでいたのです。それまですでに警備の仕事をずっと続けてきましたし、現場から管理へとステップアップして、そこでも恥ずかしくないだけの実績を上げたんだという自負を持っていたからです。ところがあとからみると、そんなものはただの慢心でしかなかったことが、はっきり分かります。
ほんの少しばかり運が良かっただけかもしれないのに、世のなかには本当に
「井のなかの蛙」というのがあるものです。
IMSグループに合流し、実際に分社独立のために事業活動を始めたとたん、そのことをはっきり思い知らされました。
私が立ち上げたAKBという準備室は、赤字傾向から少しも抜け出せません。実質的に活動を始めてから半年ほどで、累損は200万円ほど。これでは独り立ちの準備どころか、経営者失格の烙らく印いんを押されてしまうのは確実です。
「頑張れば、どうにかなるだろう」
ではなく、どうしたってしっかりした事業計画が必要だと気づいたのもそのころでした。
そうなってくるとさすがに焦ります。ところが計画を立てようにも、考えたものが足下から崩れていく―隊員が足りない、粗利が足りない、時間が足りない。一度、マイナスのスパイラルに入り込んでしまうと、なに一ついい方向には回りません。
分社計画の練り直しにつぐ練り直し。その間にも赤字は膨らんでいきます。結果的にIMSグループに参加してから2年過ぎたころには、私自身が疲れ果ててしまっていました。口にはしないまでも、みんな「山田はダメだな」と思っていたのではないでしょうか。自分の警備会社を立ち上げる! と意気揚々としてグループに加わったのに、結局、その事業所を解散せざるを得ませんでした。バラ色の夢は、文字通り霧散して跡形もなくなってしまったのです。
私は負けたんです。そんなショックからほんの数カ月、
「お前しかいない。社長代行だ」
と声がかかりました。
素直ではないかもしれませんが、ダイレクトに嬉しいという気持ちにはなれなかったですね。
グループ内を見回せば、能力的には私以上の適任者は何人もいたんです。ただし、それぞれ自分の役割・仕事があります。そのフィルターを掛けてみると、確かに私しかいませんでした。それが分かって覚悟を決めたとたん、今度は、いままでに一度も経験したことがないほどのやる気がわき上がってきました。
同時に、責任の重さも痛感しましたから、キリキリと胃が痛くなるような思いもありましたね。


私を変えた4つのモットー

山田 晋司

さきほど「井のなかの蛙」といういい方をしましたが、それが分かるためには一度井戸から出てみないといけないんです。そう考えると、株式会社CSIの社長代行は、私にとっての間違いなく外の世界でした。
考えてもみなかったことばかり、知らなかったことばかり、思い違いをしてきたことばかりを、仕事をこなしていくなかでイヤになるほど突きつけられました。そのなかでも一つだけ、いまでも一番大切だと考えていることを申し上げます。
株式会社CSIに来て、最初に驚いたのが、鵫巣社長がどれだけ隊員さんたちの心を摑んでいたか、ということだったのです。
「ビジネスライク」
という言葉がありますが、警備の仕事はやはり人間同士、社員と隊員という違いはあっても、結局人間同士の信頼感でどれくらいしっかりつながっているかで仕事の質が変わってきます。
第2号警備の現場はどうしても高齢者隊員が多くなりがちです。問題点も少なくありませんから、逆に私はそれまで少数精鋭でも質の高い精鋭部隊を創りあげてやっていきたいと考えてきました。
ところが、私が引き継いだ当時、株式会社CSIは高齢者警備員が本当に頑張ってくれていたのです。要は、それまでに鵫巣社長が確実に隊員さんたちの心を摑んで、人間同士の分厚い信頼関係を築いていたからできたことでした。
理由ややりたいことがあるとしても、現実は違う。努力したり頑張ったりするのは、当然のことですが、それでも最終的には与えられた条件のなかで、自分にできる最善のことをしていかなければならないのです。
私に任せられたのは、外から見たときには非常に順調に回っている株式会社CSIを外見と同じように順調に運営していくこと、でした。そのためには、発想も行動もそれまでの自分がやってきたものとは一変させていかなければなりません。
毎日、業務をこなすだけの日々が過ぎていきました。けれど、そんな日常のなかでも同時に現状を改革していくための布石も打っていかなければ、私という人間がここにいる意味はありません。
当時、自分の戒めのために書き出し、事業所の壁に貼って毎日読み返していた4つの言葉があります。
◎ 学ぶ心が繁栄への第一歩
◎ 謙虚・素直な心
◎ 真の道徳
◎ 本当の人財とは
なにを、当たり前のことを。美辞麗句を書き連ねただけだ、と感じられるのが普通かもしれない内容です。そう思うのは仕方のないことです。
実際、言葉そのものにはなんの意味もありません。この4つの言葉が恐ろしいほどの効果を表すか、それともただ流されるだけかは受け取る側次第。つまり、それを目にして口にし、あるいは胸の奥で繰り返す人間がどう行動するか、自分の毎日をどんなふうに変えていくかにかかっています。
人間は不思議なもので、忙しいときほど知恵が出ますし、思いもしなかったような力を発揮することができます。一度、自分から返上しなければならなかった目標の一つ―独立して自分自身の力で警備会社を経営していくということは、そのときの株式会社CSIでの経験によって実現します。
困難な状況が、間違いなく私を少しはできる人間へと変えてくれたのです。


理想の“ザ・ガードマン”

山田 晋司

小さいころに好きだったテレビ番組に『ザ・ガードマン』というものがありました。
「昼は人々の生活を守り、夜は人々の眠りを安らげ、自由と責任の名において、日夜活躍する名もなき男たち……それは、ザ・ガードマン」
というナレーションに、心躍らせたものです。
もう何十年も前、最初に警備の仕事に就くことになったとき、私の脳裏をよぎったのは、間違いなくこの『ザ・ガードマン』でした。とはいっても、人間は日常に流されやすいもの、そしてどんな大切なことでも時間とともに忘れてしまうものです。
現場の隊員を経験してきたなかでは、どうせ必要なときだけいいように使われるのだからと楽することを考え、社員になり隊員さんたちを管理するようになれば、たとえ結果がでなくても周りの条件が整わないからだ、と自分にいいわけして納得しようとします。ただし、経営者は結果のみがすべて。いいわけは一切通じません。もっとも、業績だけよければそれで問題ないと考えるようではまだまだです。
私が株式会社CSIの壁に貼りだした4つの言葉などは、世のなかの誰もが理解できる、当たり前すぎるモットーかもしれません。
でも、ほんの少しでもそれぞれの意味を考えてみればその素晴らしさに胸が震えるはずです。とはいえ時間は非情なもので、どうせすぐに文字面を追うだけになってしまいます。それでも、折に触れてその言葉を真剣に考えたときの気持ちを取り戻せるのが、人間の素晴らしいところだと私は考えるのです。どんなに頑張っても結果が出ないと、他人のせい、世のなかの責任にしてその場を逃げようとする弱さが私にはあります。
けれど、その自分の弱さと向き合い、すべて自分の責任として引き受ける気持ちを持ったときに結果が出るという経験もしてきました。それが私の宝です。日々改善、日々挑戦……そして自分自身に勝つことが大切なのです。幸せなことに、どんな人間にも人生では、どんなに少なくとも3回はチャンスが与えられています。
私の場合は最初に社会人になったとき、警備業界に足を踏み入れたとき、そして一度は手放した目標を達成できる機会が巡ってきたときでした。大切なのは、そのタイミングで自分なりの最善を尽くすことです。そして、チャンスが回ってくることを信じてその前に諦めないことです。
「ネバーギブアップ。諦めなければ失敗ではない」
という言葉ほど、気弱になったときに勇気づけられる言葉はありません。
そんな気持ちさえあれば、IMSグループは必ずそれに応えてくれるというのが私の実感です。失敗を恐れず行動すること。もし結果が出なくとも諦めず、いつも別の方法を考え次の手を打とうとすることが大切です。人間はどうしても楽な方へ簡単な方へと流れるもの。
けれど多くの場合、その先に成功は待っていてくれません。岐路に立ったときにはあえて大変だと思う方を選択するのが良いことも多いのです。そのためにも高い目標を掲げて、必ずそのハードルを乗り越えてやるという強い気持ちを育み、挑戦することが必要になります。
乗り越えたときの達成感がそれからの人生を大きく変える力になるからです。そして、絶対できると自分にいい聞かせ、外に向けて断言し、そのために実際の行動を起こす―そのサイクルを自分の習慣にすることができれば、成功以外の結果はないと私は確信しています。


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